また少し大阪から離れて、妻の実家に帰ったときにまわってきた鳥取県の伝承地数箇所を続けてご紹介。
鳥取県日野郡日野町にある竜王滝には天狗にまつわる伝承が残されています。
小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn) )が書いた怪談集「骨董」(1902年出版)の中の一篇に「幽霊滝の伝説」という作品がありますが、その話はこちらに伝わる伝説を元にしたことで知られています。
[2回]
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「幽霊滝の伝説」の細かなお話は折角なので「骨董」を手に戴くとして、あらすじは以下のようなものです。(
Wikipediaからの引用です)
明治の頃、鳥取県の黒坂に小さな麻取り場があった。ある冬の夜、女たちがいろりを囲んで怪談話に興じていた。
話に興が乗るに連れて肝試しをしようということになり、黒坂の村から離れた山の中にある幽霊滝に行って賽銭箱を持ってくることになった。ところが誰も尻込みして名乗り出ようとしない。そこで賽銭箱を持ってきた者に、今日取れた麻をみんな上げようということになった。するとお勝という気の強い女が肝試しに名乗り出た。
お勝は赤児を半纏にくるんでおぶり、幽霊滝へと向かった。晴れた夜空の下、山道を歩いて幽霊滝までやってくると、真っ暗な中にかすかに賽銭箱が見える。
お勝が賽銭箱に手を伸ばすと「おい、お勝さん!」と咎めるような声が滝つぼの中から響いた。お勝は恐怖に立ちすくみながらも賽銭箱を取ると、またしても「おい、お勝さん!」と、もっと強く咎めるような声が響いた。
お勝は後も見ずに走り去り、暗い道を駆けに駆けて麻取り場まで戻ると、賽銭箱を女たちに得意げに見せ、幽霊滝での奇怪な出来事を話した。お勝の勇気をたたえる声がわき上がった。ほっとしたお勝が赤児に乳をやろうと半纏を解くと、中から血にまみれた赤児の体が転がり出た。赤児の首はもぎ取られていた。
このお話は「日本の面影」の中で1984年にドラマ化もされているようです。Youtubeにて見る事も出来るようですが、著作権関係も分かりませんので、こちらにはurl等は載せません。
このような有名な話の伝わる場所ですので、地図を片手にいつもよりも期待に胸を膨らませつつ車を走らせて現地へ向かいます。
前日子供を誘ったのですが、怖がられて付き合ってはくれませんでした;; よってまだ皆が寝ている早朝に出発しました。
が・・・
天気は悪くなさそうなのですが、ご覧の通りの霧。
山の早朝には霧が出やすいことを失念していました。しかし、それなりに視界は通っているのでこのまま向かうことにします。
懸念していたほど霧で視界がどうしようもなく悪くなる事も無く目的地である竜王滝のある滝山公園に到着。
訪問したのは平成24年5月5日でしたが、どうやらつつじが見頃のようで「つつじまつり」という看板が出ていました。
(左) 駐車場脇にあった公園内案内図
(右) 道中でも見かけましたが、駐車場脇にはまだ花を付けている山桜もありました。
公園内に入るところに滝山神社の鳥居が。
此処からは徒歩です。
鳥居をくぐり、注連縄柱をくぐり、森の中へ続く道に入っていきます。
霧も出ていたのでとてもよい雰囲気です。早朝6時前の山中の神社ですので私以外誰も見かけることもありませんしね。
歩く事10分程、滝山神社に到着。
ここの賽銭箱を取ると、天狗に首を捥がれるかもしれませんので要注意です。
写真にも写っていますが、神社右奥に竜王滝があります。
竜王滝の様子です。
現地案内板もありました。
幽霊滝の伝説
いつの世からか知らぬが、ある寒い冬の晩、黒坂村の麻取場に働いている女房や娘などが大きないろりを囲んで怪談話に気味悪さを感じていたおりから、その中の一人が「今夜これからたった一人で幽霊滝に行ってみたら?」と言い出した。
一座の皆は鳥肌を立てて、ぞっとした恐ろしさに震えて顔を見合わせた。
その内一座の一人が「もし行く人があれば今日取った麻を全部その人にあげる」と言った。
「私もあげる」すると「私も」「私も」と全員が言った時、一座の中から安本勝と言う大工の女房が立ち上がって「皆さんが麻を私に下さるのなら私が行く」と申し出た。
女衆はお勝の言葉に驚きと悔りの気持ちで「そんならお勝さん、幽霊滝へ行ってお賽銭箱を持ってきてつかえ
それが証拠にならあね」と言った。
お勝は「賽銭箱を持ってきます」と叫んで、眠っていた吾子を背に負い麻場をかけ出て行った。
霧の深い夜である。
星明りを頼りに凍りついた道を無言で、険しい岩場や大杉の根を踏みしめ、道ならぬ道を登ると、いよいよ暗くなる。
今まで気づかなかった滝の音が耳をゆるがす轟然たるに気づくや手も足もがくがくと震え、身も心もしびれおののいて、ただぼうぜんと我を忘れ、ふと見ると白じらと氏神の祠が見えた。賽銭箱も見えた。
お勝は駆け寄って、ずいっと手をのばしたそのとき「お勝っつさん」と滝の中から声がした。
お勝は恐ろしさに、ぞっとして立ちすくんだ。
「オイ、お勝さん」再度の声は警告と脅すような怒気を含んだ様である。
しかし、お勝は気を取り直して一目散に駆け出した。
やがて麻取場に帰り、皆の前に賽銭箱を置いて幽霊滝の次第を話した。
一座の女房や娘等は気丈なお勝に同情の声を寄せて「こりゃ取った麻を丸取りされるだけの値打ちのある人だ」と語り合った。
そして「お勝っつあん、、背中の坊やが寒かろう、お腹もすい時分、かわいそうに」、さっと老婆がおぶった子供の紐を解くのを手伝ったそのとき「ア、背中に血が」と叫んだ。
「血だ」「血だ」一同が驚き、よく見ると子供の首がいつのまにか取られていたのである。
参考文献 小泉八雲集「骨董」より
日野町観光協会
「幽霊滝の伝説」の原文がそのまま読むことが出来るようになっていました。
こういう場所は初めてですが、物語の伝わる土地で、そのままのお話を読みながら再度風景を楽しむ、というのは非常に良いものです。
と言うことで、再度じっくりと竜王滝の様子です。
滝の上の方は霧にけぶっています。霧の中から落ちてくる感じとでも言えばよいのでしょうか。
滝壺には注連縄が渡されています。
行場としても使用されているのでしょうか?滝壺に歩いていくことが出来るように石が組まれていました。
その組まれた石の上を歩いて滝つぼの傍まで行ってみることも出来ます。
神社の裏手、滝の周囲にはこのような小さな社と小さな滝○(苔に覆われており二文字目以降は読めません。何文字書かれてあるのかも不明。行場という事を考えたら滝山権現あたりかな?)と書かれた石碑が。
「幽霊滝の伝説」は氏神の祠から賽銭箱を、と記されていますので、物語を読みながら頭に思い浮かべるべきは滝山神社よりも、こちらの小社の方が適切なのでしょう。
ちなみに、こちらにも賽銭箱があります。ただし固定されてはいますが。
そういえば滝山神社の賽銭箱です。
ご覧の通りお勝のように持って行こうと思っても、取り外すこともかないません。
さて、竜王滝を満喫した所で駐車場への帰路に着いた訳ですが、少し遠回りとなりますが登りと違う道を通って降りてゆきました。
というのも、そちらに「お勝ヶ池」というものがあると地図に書かれていたので・・・
こちらがその「お勝ヶ池」
由緒書きもありました。
お勝ヶ池
幽霊滝の伝説に登場する黒坂の大工の女房お勝が、背負った子供の首を天狗にとられ悲しみの涙でできたと言われている。
「幽霊滝の伝説」縁の池ですね。
あと、冒頭でも触れましたが訪問時は滝山公園が「つつじまつり」の期間中とのことで、つつじも結構咲いていました。
ただこの滝山公園においても、終わりかけの時期であったのでかなりの花が散っている状態でした。
変わりにといっては何ですが、
滝山公園入口にあった休憩所の傍にあった山桜が満開の状態でした。
やはり、山の方だと大阪と比較して時期が大分遅いようです。
そんな事をしていると、山から日が登りだしました。
大変満足してこちらでの散策をお終いにしました。
滝山神社
場所:鳥取県日野郡日野町中菅 滝山公園内
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