妖怪好きが避けては通れないモノに、古代製鉄があります。
鬼、河童、一本だたら等、古代製鉄産業、或いはその従事者に根を持つといわれる妖怪は数多くいます。
かくいう黒猫が今回の島根の旅の主題として選んでいる「ヤマタノオロチ」もその妖怪たちのうちの一つです。
そこで、日本で唯一現存する高殿式たたら吹きの施設である、「菅谷(すがや)たたら山内(さんない)」にも足を運んできました。
また、ここは「もののけ姫」に出てくるたたら場のモデルとなった場所としても知られています。
[5回]
県道272号線を走らせていると目的地である菅谷たたら山内があります。
正確には、山内と言う集落で、そのに残された菅谷たたらの施設の事をさしているのですが。
そしてこの菅谷というのは、この地で製鉄された上物を「寸」、上の下を「可」、並みの物を「や」と選別した為に、続けて「すがや」と称されたのだそうです。因みに極上物は「天」とされたそうです。
よって山内の集落の幾つかの場所を見学できるようになっていました。
272号線沿いの駐車場に車を止めて、まずは目に付いた「山内民族伝承館」へ入ってみました。
外観と案内板
山内生活伝承館
山内は「たたら師」達の集落であり、特殊な集団社会を構成し、定着した。
菅谷たたら山内は、その面影を偲ぶことができる日本唯一の場所である。
山内生活伝承館は、たたら製鉄にまつわる有形、無形の生活文化、生産文化を菅谷たたら山内の風土の中で明らかにし、和鉄を支えた人々の「暮らしとなりわい」を伝えるために建設したものである。
昭和61年10月 吉田村長
で、早速入ってみたのですが、電気が消されていて真っ暗。
休館日かな?とも思ったのですが、それにしては施錠されていなかったので、ハテ、どうしたものか・・・とカウンターの上を見たところ・・・
お客様へ
いらっしゃいませ、お客様に誠に勝手なお願いですが、ここ山内生活伝承館は自由に見学して下さい。
それで一箇所だけ電気を付けて置きますので机の横の上にスイッチが有りますので付けて見学をして下さい。出られる時は必ず一箇所だけ付けて置いて下さい。勝手なお願いですが宜しくお願いします。
・・・
どうやら、手動でスイッチを入れなければならないようです。
大阪では考えられないおおらかさだな~と思いつつも、入場料も取っていないので人件費も出ないだろうし、そういや維持費とかどうなのだろうとか、人を配置するときは村民さんたちの有志でやっているのかな、とかいろいろ下世話な事を考えてしまいました。
ともあれ、人目を気にせずゆっくり見る事ができそうなので、これはこれでありがたいのかもしれません。
早速、スイッチを入れてみます。
ご覧の通り、たたら場や山の生活で使用された道具類の陳列が主体のようです。
そういえば、もののけ姫でもこのような頭巾を被っているキャラクターもいましたね。
このような新聞のスクラップもあったりしますが、全体的に手作り感がありありです。
天上には稲わらで編まれた竜もいました。
また、アルバムも置かれていて、貴重な写真なども見る事ができました。
こちらはミーハーですが「もののけ姫、野々村真一行来村」時のもの。
とまあ、一通り見終わった後、高殿へ移動します。
土壁に直接取り付けられた案内板は、少し無粋であるようにも感じます。
菅谷たたら
菅谷たたらは、田部家経営の多くのたたらの内の代表的なもので、宝暦元年(1751年)より、大正10年(1921年)まで引き続き製鉄していたもので、全国で現存する唯一のたたら建築である。 このたたらは、10間(18.3m)四方・高さ28尺(8.6m)の角打と丸打の折中たたらで中央に製鉄炉を築いてある。屋根にある通気用の火守内は、建物の保存上ふさいであるが、奥の中央に小鉄町、その両側に炭町、左右入口の中間に土町があり、別にむらげ(村下)以下の控室がある。
見学には300円が必要だそうで、村下屋敷跡にある受付に行けばよいとの事。
受付はこのような感じ。軒先に鉧(けら)も置かれてありました。
受付をすると、受付のおじさんが高殿内を案内していただけるようです。
高殿の中はこのような感じです。
黒猫の写真の腕が悪く、 心霊写真のようになってしまったorz
上の写真ではわかりにくいので、 案内のおじさんを取った写真を見ていただけたらと思います。
地上部分は、 炉の左右にふいごが設置されており、 古くは「もののけ姫」で描写されていたように「番子」がふいごを踏むことで新鮮な空気を炉に送る構造になっていたようです。
近年になり水車が活用できるようになると、 水車の力で送風が行われるように改造されたのだとか。
ちなみにイラストの地下部分は、 人の記憶によるもので、 現在調査を行いたくても国の有形民俗文化財に指定されてしまっているので掘り起こすことが出来なくなっているのだそうです。
このような大規模なたたら場では、 地下構造もかなり重要だそうです。
炉の内部と、 炉下部にあけられた鉄の不純物である鉄滓(のろ)を排出するための穴。
「たたら吹き」では、 鉄が作られる過程で炉を侵食していきますので、 一回の操業ごとに炉を作り直さなくてはなりません。
炉とふいごの接合部と、 表の水車小屋から送られてくる空気の接合部
近代のたたら吹きでは、 それまで人力だったものが、 かなりの部分で水車の力を利用するように工夫されていったようです。
こちらが水車から送られてくる空気の地下配管。
上述のように掘り起こす事が出来ないので、どのように通っているのかは分からないとの事です。
技師長である村下が座る村下座。
実はこれ以外にも小鉄町や炭町なども撮っていたのですが、何が何やら分からないものしか撮れていなかったのでボツに;;
さて、炉に火を入れてから三日三晩炉を休めることなく動かして鉄を作っていくのですが、最後に炉を壊して鉧(けら)を取り出します。取り出すといっても数トンもある鉄の塊の状態なのですが。
そしてそれを高殿の直ぐ脇にある池で冷やし加工できる温度にしていきます。
こちらがその鉄池跡。
炉からこちらまで傾斜がつけられており、移動させやすいように工夫されてありました。
高殿(たたら場)のすぐ脇に立つ水車小屋とその内部。
炉に風を送り込む他、 出来上がった鉧(けら)を裁断するのにも利用していたようです。
大胴場
大胴と呼ばれる約500貫の分胴を水車の力で引き上げ落とすことにより、炉操業によって出来た900~1200貫の鋼を40貫くらいずつの塊にする作業場。
この塊は鉄蔵(現在の米倉横の空地にあった)に一時保管し、内倉(元小屋内)へ、またはそのまま内倉へ運びこまれた。
ちなみにここでの「胴」という字ですが、案内板に書かれていたのは金辺に胴でした。
その字はありませんので、「胴」で代用させて頂きます。
操業によって出来上がる鉧(けら)が900貫~1200貫ということですから、1貫を3.75kgで計算すると3,375kg~4,500kgという計算になります。移動するのも割っていくのも並大抵の事では有りませんね。
操業を開始するときに村下のみが通る事を許されたという村下坂。
ちなみに金屋子神社淵で村下は禊を行ってから操業を開始するそうです。
製鉄は産業であると同時に神事でもあったのでしょう。
後、写真ではわかりにくいのですが、 岩肌が少し赤くなっています。これはたたらから出る鉄滓(のろ)をはじめとした鉄くずが、 川に流れ錆びて岩肌にこびりつく為赤くなってしまうのだそうです。
もちろん製鉄の神である金屋子の神を祀った祠もありました。
この後、様々な作業を行う場所である元小屋も案内していただけました。
こちらで大胴場で40貫ほどにした鉄をさらに細かくし、品質によって分別していったそうです。
ちなみにこちらは二階にも上がらせていただく事が出来ました。
一応、案内はこちらで終了でした。
ですが、高殿の裏に山へ上がっていく道があるのに気がつきました。
たたら製鉄では、村下が炉の炎の色を見ながら、燃料である炭の加減、投入する砂鉄の加減を決めていたといいますので、どうしても目が悪くなる方が多かったのだそうです。
その方々が村の氏神に快癒の祈りに良く赴いたというので、おそらくそういった社があるのだろうと思います。
登ってみた所、案の定ありました。
しかし、鳥居といい妖怪でも出てきそうな雰囲気です。
狛犬も年季が入っていますね。
と、だいたいこの様な施設でした。
妖怪に興味が無くとも、一見の価値は十分にある施設だと思いますよ。
<<関連エントリー>>
金屋子神-島根県安来市・金屋子神社-
菅谷たたら山内
場所:島根県雲南市吉田町吉田
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山内生活伝承館
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